元・発注者が明かす、コンサルの資料で本当に見られているところ

この記事の想定読者

  • 発注者に提出する設計資料・成果品を作る、建設コンサルタントの若手技術者

建設コンサルタントとして発注者に資料を出すとき、「これで通るだろうか」と不安になったことはないでしょうか。何を直せば評価されるのか、発注者が資料のどこを見ているのか――受注者の側からは、意外とわからないものです。

私は建設コンサルタントとして働いたあと、地方公務員の技術職として5年間、発注する側にいました。そして今また、発注者支援業務でその現場に戻っています。発注する側と受注する側、両方の席に座ってわかったことがあります。発注者が資料に求めているのは、突き詰めると2つだけです。「わかりやすさ」と「根拠」。この記事では、なぜ発注者がこの2つに執着するのか、その裏側にある事情まで含めて、正直に書きます。

「誰が見てもわかる資料を作れ」――役所で最初に言われたこと

公務員になって最初の上司に言われた言葉が、今でも忘れられません。

「誰が見てもわかる資料を作って、決裁を回せ」

最初はピンときませんでした。土木の部署にいれば、専門用語は当たり前に通じます。しかし決裁は、土木の課長で止まりません。その上の、土木を専門としない決裁権者にまで上がっていく。専門用語が一つでも引っかかれば、そこで決裁は止まる。「これはどういう意味だ」と聞かれて答えに詰まれば、差し戻しです。

つまり発注者にとっての「わかりやすい資料」とは、好みの問題ではありません。決裁を通すための実務上の必須条件なのです。専門用語を噛み砕き、設計を知らない人間が読んでも筋が追える――それができている資料は、発注者にとって本当にありがたい。逆に、専門家どうしでしか通じない書き方の資料は、発注者が自分で噛み砕き直す手間を負うことになります。

補足:受注者がそこまで気を回すと時間がいくらあっても足りない、という現実はあります。ただ、これを意識できているかどうかで、発注者からの信頼ははっきり変わります。私自身、今でもこの言葉を心がけて資料を作っています。

発注者が最初に見るのは「根拠が破綻していないか」

では発注者は、受け取った資料のどこを最初に見るのか。デザインの美しさでも、ページ数でもありません。まず見るのは、根拠が破綻していないかです。

条件設定、工法比較、概算金額。そのすべてに、なぜそうなるのかの根拠があるか。発注者はそこを確かめます。すべてに根拠が付いている資料を見ると、発注者は心から安心します。逆に、結論はあるのに「なぜそうなるのか」が抜けている資料は、どれだけ体裁が整っていても発注者を不安にさせます。

私が発注者だったとき、コンサルタントに根拠を事細かに確認するようにしていました。意地悪でも粗探しでもありません。理由は次の章にあります。

発注者が根拠に執着する、本当の理由

受注者が見落としがちなのは、発注者の背後に何があるかです。発注者は、その資料を一人で完結して使うわけではありません。資料は決裁として上席に上がり、さらにその先には会計検査が控えています。

決裁を回せば、上席から「この根拠は?」と指摘されます。答えられなければ差し戻し。そして数年後には、会計検査で「なぜこの工法を選んだのか」「なぜこの金額なのか」を問われる可能性がある。そのとき根拠がなければ、発注者の責任問題になりかねません。

だから発注者は怖いのです。根拠を求めるのは、保身という言葉で片付けられない、組織で仕事をする以上避けられない構造です。私がコンサルタントに根拠を細かく聞いていたのも、後で自分が聞かれたときに答えられるようにするためでした。

ここが両方の席に座ってわかった核心です。発注者が求める「根拠」とは、発注者自身が上席と会計検査に説明するための武器なのです。

受注者が知っておくと、資料は強くなる

この構造がわかると、資料の作り方が変わります。発注者を「審査する相手」ではなく「上席と検査に説明しなければならない、同じ立場の人間」として見ると、何を盛り込むべきかが見えてきます。

  • 結論だけでなく、そこに至った根拠を必ずセットで書く。発注者がそのまま説明資料として使える形にする。
  • 工法比較は「なぜ他をやめたのか」まで書く。検査で問われるのは、採用案より不採用案の理由であることが多い。
  • 概算金額には、予算という制約があることを意識する。根拠のない数字は、発注者が一番恐れる部分。
  • 専門用語は、決裁権者まで届く前提で噛み砕く。わかりやすさは親切ではなく、決裁を通す力。

受注者がここまで意識して資料を作ると、発注者は「この会社はわかっている」と感じます。それは次の仕事につながる信頼になります。

まとめ:発注者の向こう側を想像できるか

発注者が資料に求めるのは「わかりやすさ」と「根拠」。その理由は、決裁権者に届けるため、そして上席と会計検査に説明するためです。発注者は審査しているのではなく、自分が説明責任を負う立場で、その武器を求めている。

受注者の側からはなかなか見えない景色ですが、これを想像できるかどうかで、資料の説得力は大きく変わります。発注者の向こう側に何があるのかを意識する。たったそれだけで、あなたの資料は一段強くなるはずです。

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