この記事の想定読者
- 公務員技術職として働きながら、消耗している実感のある人
- 「出戻り転職」や「安定を手放すこと」に迷いがある土木技術者
32歳のとき、私は地方公務員を辞めて、最初に勤めていた地場の建設コンサルタントに戻りました。世間で言う「出戻り転職」です。しかも、声をかけてくれていた大手設計会社の誘いを断っての出戻りでした。
公務員を辞める。大手ではなく地場を選ぶ。さらに一度辞めた会社に戻る。世間の「正解」から三重に外れた選択に見えると思います。でも私は、この選択を後悔していません。なぜそう決めたのか、戻った後どうなったのか、順番に書きます。
辞めると決めた日 ― 体が先に、答えを出していた
公務員としての5年間で設計力が身についたことは、別の記事に書いたとおりです。ただ、その裏側で、消耗も静かに積み上がっていました。
地元住民からの苦情対応に追われる日々。何年経っても変わらない体制。そして一番こたえたのは、仕事を捌ける人にどんどん仕事が集中し、仕事をしない人のほうが結果として得をする仕組みでした。頑張るほど損をする構造の中で、私のストレスは確実に溜まっていきました。
朝、仕事に行きたくないと感じる日が増えました。そしてあるとき、湿疹が体に出ました。ストレスが体に出る、というのはこういうことか、と。頭で迷っているあいだに、体が先に答えを出していたのです。辞めることは、即決でした。
「絶対にやめないほうがいい」― 反対を押して辞めるということ
反対は、もちろんありました。公務員は今でも安定の象徴です。試験に受かったときには家族も喜んでくれましたし、辞めると伝えたとき、直属の上司には「絶対にやめないほうがいい」と言われました。
それでも辞めたのは、判断軸がはっきりしていたからです。安定は、健康と引き換えにするものではない。体にサインが出るほど消耗する環境に、「安定しているから」という理由だけで居続けることのほうが、長い目で見ればよほどリスクだと考えました。
ここは強調しておきたいところです。公務員という働き方そのものを否定する気はまったくありません(向いている人には良い仕事です)。ただ、「公務員を辞めるなんてもったいない」という言葉は、あなたの体調や消耗を見たうえでの言葉ではない、ということです。
なぜ大手ではなく、古巣の地場コンサルだったのか
辞めると決めたとき、ありがたいことに大手設計会社からの誘いがありました。それでも選んだのは、最初に勤めていた地場のコンサルです。理由は2つあります。
一つは、落ち着ける環境の価値です。一度働いた場所ですから、多少の人間関係の難しさも含めて、中身を知っている。消耗しきった状態からの再スタートに、「知らない大組織」より「勝手のわかる古巣」を選んだのは、自分にとって合理的な判断でした。
もう一つは、キャリア戦略です。大手は部門が細分化され、専門特化が進みます。一方、地場のコンサルは橋梁、治山、砂防と、さまざまな業種の業務に触れる機会がある。発注者経験で視野が広がった今の自分には、まず幅広い知識を蓄積できる環境のほうが価値があると考えました。実際いま、その狙いどおり多様な分野の知識が積み上がっています。幅を広げきったら、次はどこか突出した専門部門をつくる。それが現在進行形のプランです。
出戻り後の現実 ― また現場。でも今度は、カードがあった
美談で終わらせないために、戻った後の現実も書きます。出戻った最初の1年、私はまた現場に出されました。24歳のときと同じ構図です。
でも、今度の私は若手時代とは違いました。発注者側での5年の経験がある。「こんなことをしている場合ではない」と思った私は、技術士補を取得しました。資格という客観的な形で「設計の知識がある」ことを示したのです。このアピールが効いて、私は設計に回ることができました。
若手時代の私は、環境に不満を持ちながら動けませんでした。今回は、資格を「配置を変えるカード」として使った。同じ「現場に出される」という状況でも、打てる手を持っているかどうかで結果は変わります。資格の価値は転職市場だけでなく、社内の配置にも効く――これは実体験として断言できます。
待遇と働き方の実際 ― 「公務員=楽、民間=激務」はもう古い
気になる人が多いはずなので、待遇も正直に。年収は30代で600万円に乗りました。地方の地場コンサルでこの水準なら、十分に現実的な選択肢だと言えるはずです。
働き方についても、一つ実感を。発注者支援業務で役所の中にいる今、私の見る範囲では、役所の建設課のほうがコンサルより残業しているとすら感じます。災害対応、議会対応、住民対応。「公務員は定時で帰れて楽、民間は激務」という単純な図式は、少なくとも土木の世界ではもう実態と合っていません。安定や働きやすさのイメージだけで進路を決めると、入ってから苦しむことになります。
まとめ:出戻りは「後退」ではない
- 体に出たサインは、キャリアの重要な判断材料。安定と健康は引き換えにしない
- 「もったいない」という周囲の声は、あなたの消耗を見たうえでの言葉ではない
- 会社選びは知名度ではなく戦略で。幅を取りたい時期なら、地場には地場の強みがある
- 資格は転職市場だけでなく、社内の配置を動かすカードにもなる
- 出戻りは後退ではない。経験を積んで戻るなら、それは螺旋階段を一周上がること
一度辞めた場所に戻るのは、勇気が要ります。でも、発注者の景色を知って戻った私は、最初にいたころとは別の技術者です。同じ場所に立っているようで、見えているものが違う。出戻りを迷っている人がいたら、「どこに戻るか」ではなく「何を持って戻るか」で考えてみてください。
