この記事の想定読者
- 発注者への協議・報告のタイミングに迷ったことがある、コンサル・施工管理の若手技術者
- 「こんなことで協議に行っていいのか」と抱え込みがちな人
発注者との協議には、2種類あります。業務計画の確認や中間報告のような、契約に組み込まれた定例の協議。そして、現場で想定外のことが起きたときの臨時の協議です。
難しいのは圧倒的に後者です。早すぎれば「そんなことまで聞くな」になり、遅すぎれば取り返しがつかなくなる。私は発注する側(公務員技術職)として5年間、数えきれない協議を受ける側にいました。その経験から、感心した協議の持ち込み方と、一番もめるパターンの両方を、正直に書きます。
原則:計画と差異が出そうなら、すぐ協議
まず大原則から。現地が貸与資料と違う、想定外の支障物がある、地質が前提と異なる――当初の計画と差異が出そうな重要な条件が見つかったら、すぐに協議です。
一番やってはいけないのは、その情報を抱えたまま、現場の判断で勝手に進めてしまうこと。方針が変わるかもしれない情報を発注者が知らないまま業務や工事が進むと、後で発覚したときの手戻りは図面一枚では済みません。
ただし「すぐ」と「丸投げ」は違う
「すぐ協議」と言うと、気づいたことを何でもそのまま発注者に投げることだと誤解されがちですが、それも違います。
順番は、まず社内。気づいた情報を会社の中で報告し、精査する。本当に方針に関わる話なのか、技術的にどんな選択肢があり得るのかを社内で確かめたうえで、適切なタイミングで発注者に上げる。この順番を守れる担当者は、発注者から信頼されます。
発注者の側から見ると、「現地がこうなっていました。どうしましょう」だけの協議は、判断材料を全部こちらで揃え直すことになります。一方、「現地がこうなっており、対応としてA案とB案が考えられます。当社としてはAが妥当と考えますが、いかがでしょうか」まで整理されて来る協議は、その場で議論が始められる。同じ報告でも、発注者の負担がまったく違うのです。
感心した協議 ― 発注者の思考を先回りしている
発注者だったころ、協議の持ち込み方で感心したことがあります。それは、こちらの思考を先回りして資料を準備しているパターンでした。
協議の場でこちらが「では、この場合の比較は」と聞こうとした瞬間、「そうおっしゃると思って、比較表を作ってきました」と次の資料が出てくる。こちらが上席に説明するときに必要になりそうな根拠が、先に揃えてある。こういう協議は、その場で前に進みます。
種明かしをすると、これは超能力ではありません。発注者の質問には、構造的なパターンがあるからです。別の記事で書いたとおり、発注者は受け取った話を上席への決裁と、その先の会計検査に説明しなければならない立場です。つまり発注者が必ず聞いてくるのは、「なぜそうなるのか(根拠)」「他の案はなかったのか(比較)」「いくら変わるのか(金額)」の3点。この3点を先に用意しておくだけで、協議は「先回りされている」協議になります。
一番もめるのは「後出しの協議」、特に工事
逆に、発注者として一番困ったのが、後からの協議。遅すぎる報告です。そして経験上、これが一番もめるのは工事です。
理由ははっきりしています。設計段階の後出しなら、傷は図面と報告書のやり直しで済みます。しかし工事は、現地にものが出来てしまう。「実は現地条件が違っていて、こう変えて施工しました」と後から言われても、出来てしまったものは簡単には戻せません。契約金額や工期に関わる話なら設計変更の手続きが必要ですが、それは本来、施工の前に協議して決めておくべきものです。
発注者の立場では、事後報告された変更は「認める根拠」を後付けで組み立てることになります。上席にも会計検査にも説明しづらい、一番苦しい形です。だから後出しの協議は、内容そのものより「先に言ってくれなかった」ことでもめる。受注者が悪気なく「報告するほどのことではない」と判断したものが、発注者にとっては契約に関わる重大事だった、というすれ違いは本当によく起こります。
迷ったときの判断基準
「これは協議すべきか」と迷ったら、次の3つで考えてみてください。
- 契約との差異につながるか ― 数量・金額・工期・成果の内容が変わる可能性があるなら、協議。迷うレベルでも一報を入れる
- 後戻りできない工程が近いか ― コンクリートを打つ前と後、埋め戻す前と後では、協議の価値がまったく違う。不可逆の一歩手前が最終期限
- 発注者が「先に知らなかった」ことで困るか ― 内容が軽くても、後から知ると発注者の説明が苦しくなる話は、先に伝える
そして持ち込むときは、社内で精査したうえで、根拠・比較・金額の3点セットを揃えて。これだけで、同じ内容の協議が「困った報告」から「頼れる提案」に変わります。
まとめ:協議の早さは、技術力と同じくらい信頼をつくる
- 計画と差異が出そうな条件が出たら、すぐ協議。勝手に判断して進めない
- ただし丸投げではなく、まず社内で精査してから。A案B案まで整理して持ち込む
- 発注者が必ず聞くのは、根拠・比較・金額。先回りして用意すれば協議はその場で進む
- 最悪は後出し。特に工事では、出来てしまった後の協議が一番もめる。不可逆の一歩手前が最終期限
協議のタイミングと持ち込み方は、図面を描く力と同じくらい、技術者の信頼をつくります。発注者は、ミスのない受注者より、早く正直に相談してくれる受注者を信頼するものです。両方の席に座った人間として、これは断言できます。
